【小檜山】
昨今、非常にいろいろな場面でレジリエンスという言葉が使われるようになってきました。その背景には、これまで防災で見落とされていたり、軽視されていたような視点があって、それをレジリエントという新しい言葉でしっかりとやっていくべきだという考えがあるのだと思います。
最初にパネリストの方々から、これまでの防災で見落とされていた点、あるいは軽視されていた視点についてコメントをいただけますか。
【アルマザン】
今日は、再開発のあり方と、既存の東京の小さいスケールのよさと活用の可能性について話しました。基本的には、現状の再開発には見落とされている危険性があることに賛成なので、そこは大きな議論にならないと思います。
一方、大きな論点は、空き家の話です。私は実際に空き家のリノベーションや研究も行っていますが、やはり活用するのはとても難しい。たぶん今の時代は、空き家を資源にすることにはみんな賛成だと思う。古いところはストックをリノベーションすれば、サステナブル、エコロジカル、あるいは本当に美的にすごく美しい。ただし、実際に現場から見るとなかなか難しく、なかなか進まない。なので、現実的にはどうすればよいかについてはディスカッションが少し足りなかったのかなと思います。たぶん、空き家は、コミュニティに関してすごく意識が強い方しか提供しない。理論的には大丈夫だが、実践的にはなかなか難しいという印象を受けました。
【紙田】
アルマザン先生のお話を受けて、やはり空き家を活用すべきというのは、本当に皆同じ意見だと思います。いろいろな支援制度や緩和措置もできていますが、実際、空き家を活用するのは主に市場で回すということが大部分。もう取り壊すしかないというものを、ちゃんとお金が取れるような仕組みにしていくことが大事だと思います。
所有者としては、空き家のまま放っておいて老朽化するよりは、何かしらお金になったり、活用してもらえるほうが本当はうれしい。ただ単に不動産流通ということよりは、どう活用されていくか、が大事なのではないでしょうか。今回の事例ではアーティスト・イン・レジデンスというところ、アトリエを作ったり、いろいろな集まる場を作ったりと、活躍の場を安く提供する。担い手が大事だと守先生からありましたが、やはり中身のアクティビティと、不動産としての価値を有機的につなげていく。そういうことが大事なのではないでしょうか。
【守】
レジリエント、サステナブルとか、ここ数年のキャッチコピーですが、ここに込められている期待は何でしょうか。冒頭で小檜山先生が、これは材料工学から出ている単語で、頑丈である、元へ戻るとか、そういう意味があると話がありましたが、そこに込められている期待というのは二つあると思う。一つは、やたら頑丈な世界。映画で『ターミネーター』のように、何があっても壊れないでそこにいる。そのやたら頑丈なイメージをもって、このレジリエントという単語を使っているケース。
もう一つは、ちょうどフェニックスのように、どんなに損傷してもリカバーする。そういう都市として、レジリエントを使っている方もいるでしょう。最終的には、このフェニックス型のまちがたぶん、人類としては望ましいものだろうと思います。ただ、『ターミネーター』のようにやたら頑丈なもの、頑丈なインフラを求めた人たちが結構いたという過去が日本にはあると思います。
「国土強靭化計画」は東日本大震災のあとに出てきましたが、あれを恩師の伊藤滋先生は非常に嫌がって、「強靭」というのはあの字を当ててはいけない、「狂人」と書くべきだと言って安倍首相を困らせていました。ただ、これは理工学系の全卒業生が等しくかかっていた病気のようなものではないか。例えば昭和40年代に霞が関ビルという日本初の高層ビルを作った方々は、100年で使えなくなるなんて気持ちではさらさらない。半永久的に使えるんだという意気込みで作ってしまって、おかげで分解できなくて困ってしまうとか、そういうものになっています。
これからは、簡単に作れて簡単に分解できる都市、つまり分解を念頭においた超高層ビルがあってもいいと思います。そういう柔軟性がないと、例えば都市開発というのはきれいな街区を作って、お客さんがパーッと来て、そのときは素晴らしいが、ちょっと流行が去ると誰も来なくなってしまう。そのときに、がっちり作ってしまった再開発街区は手の打ちようがない。流行が去ったらサッと仕立て直しができるようなまち。そういう技術を、簡単にはできないだろうけど、やはり作っていかないと。ユーザーはそれぐらい気が移ろうものであって、流行は変わるものです。
土木、建築からたくさんの卒業生がこの100年間の間に出ているわけですが、この人たちがひたすら念じ、目指したものはやはり永久のモニュメント、作ったら絶対にもつもの。でも、この発想は変えたほうがいい。簡単に作れるけれども、簡単に壊せる。簡単に分解できる。これが今、時代が必要としているものではないでしょうか。全理科系の技術者はそちらに向けて技術開発のハンドルを切ってもいいのではないか。簡単に作り簡単に分解できると、空き家の問題もずいぶん世界が変わると思います。
【星野】
住宅政策の範囲からですが、空き家に限らず、分譲マンションも当てはまってくるのかなと思います。今や都民の主要な居住形態がマンション、共同居住になっています。豊島区も約8割が共同住宅で、都心区の場合は、9割ぐらいというところもあります。
吉川先生からもありましたが、分譲マンションというと一見、地震や火災に強く、防災という観点からはプラスに自治体としても評価しがちです。しかし先日の台風19号の話を聞いている中では、タワーマンションに限らず、停電、断水した場合、特に高齢者や、エレベーターが使えないというのは大きな問題になると思います。
区のマンション政策においても、分譲マンションについて今問題になっているのが二つの「老い」です。建物の老朽化と、入居者が固定化されていることに伴う高齢化という、二つの老いに直面しています。特に分譲の場合には、多様な方が入居しているので合意形成も非常に困難になっています。共用設備の改修をする場合には費用もですが、一定の合意形成等も必要です。本当に根深いことが、長期的に見たときに、レジリエンスなまちに向けて一つの課題になってくるのかなと思います。今まで自治体レベルでもしっかりと受け止められてこなかったのかなと、感じています。
【小檜山】
守さんから、簡単に作れて簡単に分解できる、そんな都市を志向すべきだという非常に重要な視点の問題提起がありました。この柔軟性ということを考えると、例えば災害が起こったときに以前と同じ形に戻す復旧を行うのではなく、以前とは別の形に移行するような、そういう柔軟な復興というもののあり方も考えることができると思います。先ほどの「国土強靭化」という言葉で、壊れない、壊さないという視点が強調されがちですが、壊れても負けない、そういうまちづくりをこれから志向していくべきだと。
柔軟に別のまちの形に移行していく復興を行うためには、まちにどのような仕組みを取り入れていくべきか。どのような建築づくり、まちづくりを行っていくべきか。こういった視点についてお話をいただけますでしょうか。
【アルマザン】
非常に面白いご指摘でした。私はもう少し建築的な視点から言うと、ローマのパンテオンと伊勢神宮。ローマのパンテオンは2000年ぐらい使われていて、途中で教会になったのですが、ずっと同じ用途として神殿から教会。パンテオンは、鉄筋ではないがローマン・コンクリート。ローマは地震がないから問題がない。それは西洋の建築の美学というか、面白いところです。しかし伊勢神宮は20年ごとに新しく作り替えられます。
これから作るべき新しい技術ではなく、もしかしたら今既にある技術が重要なのではないでしょうか。日本にある伝統、昔からある知識、木造。木造も、もともとは同じ建物を移転、移築したりが普通でした。分解してまた建て直したり。だから、今ある日本の伝統をもう一回思い出していくような方向性に進んだほうがいいのではないでしょうか。伊勢神宮とパンテオンを比べると、やはり伊勢神宮のほうが日本の気候や、災害などの自然環境に合っていると思います。20年ごとにまた建て直し、その中でもちろん大工さんの文化などもつながっていく。
逆に問題は、今それを変えようとしている方向性のほう。なぜそういうもともと日本にあった文化は否定され、木造をやめてコンクリートのビルにしようということになったのでしょうか。これから必要なのは、新しい技術ではなく、今ある技術ではないでしょうか。
【星野】
自治体の職員なので現実的なことを考えるのですが、震災が起こったときに、まず住まいの確保を担当するのが私です。災害時には都区部を中心にまとまった土地がなく、仮設住宅のようなものを建設することになるのですが、そういったところも、計画上はがれき置き場になっていたりする。既存の住宅ストックの活用が今後より重要になってくると思います。特に既存の賃貸アパート・マンションは行政としても借り上げ公営住宅として、有事のときに提供できるように日ごろから準備していく必要があります。
一つの課題としては、空き家・空き室が多い理由でもありますが、老朽化して更新が進んでいない賃貸アパートが非常に多い。どうしてもアパートなので、エレベーターではなく外階段で昇る、バリアフリー化されていないものも多い。特に賃貸アパートのようなところはワンオーナーで、管理状況についても管理者によって差があります。行政として今後どういう支援ができるのか、柔軟な復興を行うために何が重要かと、このテーマを通して考えています。
【小檜山】
バリアフリー改修の推進などが、実は災害後のレジリエンスを高める上で密接に関わっている、と。
それでは、再び空き家問題に戻りたいと思います。
今、星野さんから、空き家は住まいを失った人たちを受け入れるバッファとしての役割も実はあるのではないか、というお話がありました。けれども、その一方でさまざまなレジリエンスに与える影響もあるのではないか。この影響と対策について、少し皆さんからご意見を伺えますか。
【アルマザン】
やはり最終的には賃貸住宅オーナーの問題が重要だと思います。きょうのプレゼンテーションでの、「断っている」という拒否感の問題。だから新しい対策としては、例えば市場に任せるのではなく、行政として、人の拒否感に任せるのではなくて、例えばその空き家を管理したり、買ったり、公営住宅のように扱うこともできるのではないでしょうか。
それぞれの文化にもよるけれども、ヨーロッパなどは行政が結構関わっています。私の印象ですが、日本はもしかしたら行政が少し市場に任せている部分が多いのではないでしょうか。考え方やイデオロギーが違うのかもしれません。しかし、今の高齢化社会では、本当に、全部を市場に任せても、インセンティブでもうまくいかないのではないか。いろいろな補助金などがあるかもしれませんが、それでも拒否感が残るのであれば、もう少し行政は行動を起こしてもいいのではないか、そういう時代になったのではないかと思います。
【紙田】
都市全体として集約化を図っていくことが必要なのではないでしょうか。空き家がぽつぽつとあって、隣は真っ暗な家で崩れかけているようなところを計画的にまち全体として考えていって、コンパクト化、あるいはメリハリのあるものにしていく。ここはみんなで居住している場所で、ここは危険だから住むのはやめて、洪水のときには断水地域にしましょうとか、ある程度、都市構造全体で考えるということ。壊れないまちというよりは、壊れても負けないというのがいいのではと思います。
例えば阪神淡路大震災のときに、家の下敷きになって自力で出てこられなかった人が、だいたい3万5000人ぐらいいました。その中で隣近所の人に助けられた人は2万7000人、それ以外の消防とか警察に助けられた人は8000人。ほとんどの方が隣近所、あるいは家族に助けられています。その中でも、助けられた生存率は、隣近所の方が助けたときの生存率が8割。消防などに助けられた方は8000人のうち半数しか生存していませんでした。そういうこともあるので、やはりご近所の力というのは本当に重要なのかなと感じています。
今コンパクトシティ政策の中で、居住誘導地域とそれ以外に分けたり、メリハリのある都市づくりをしていこうという動きがあります。そのあたりのところも一緒に兼ね合わせながら考えていったらどうかなと思っています。
【小檜山】
そろそろまとめとして、講演やこれまでの発言を踏まえた上で、レジリエンスを高める解決策についてパネリストの方々からご意見を伺っていきたいと思います。レジリエンスを高める解決策、今、東京に必要な取り組みはどういったものでしょうか。
【星野】
最後に、私も空き家についての発言をしたいと思います。戸建ての空き家というのは、適正に管理をされていないと草木が生えて、賃貸住宅、分譲マンションよりも時間的には早く外部不経済を与えます。行政としては、建築側と一緒にしっかりと状況を把握していかないといけません。ただ実際、空き家になってしまってからだと行政の立場としての効率が非常に悪い。なぜならば、所有者がもうそこにいないからです。地方とは違って東京の場合は、所有者が一見、不明というか、そういう状況も結構あります。登記簿を追ったり、近所の方に聞いても分からず、なかなか対処に時間がかかる。また、せっかく所有者を見つけても、現状のいろいろなインセンティブという部分がなかなかありません。除却してしまうと税が高くなるとか、そういうものがないのでより問題は深刻になってきます。
空き家予備軍で、戸建て住宅に住んでいる単身高齢者の方は多く、この5年間で1000人ぐらい増えています。住まいの終活支援などと言うと社会的に批判されそうですが、終活支援というのは一般論としてあります。空き家になってしまったものの居住支援は豊島区でも必要だと思っていますが、予防という部分も、いろいろな相談の体制を整えたらどうかと、今まさに重要な視点として検討しているところです。
【小檜山】
高齢者の住み慣れたお住まいを、自分の人生を全うするまで住み続けられるようにリフォームする動きがありますが、これに(相続による権利関係の複雑化を防ぐ)リバースモーゲージを活用するといった、予防的な措置も必要だということですね。
【守】
まず伊勢神宮の話ですが、もし20年おきに建て替える超高層ビルというのを日本が開発したら、これは世界に大ニュースとして流れるのは間違いないから、ぜひ慶應大学理工学部の皆さんに50年ぐらいかけて開発するつもりで頑張ってほしい。それから空き家、リバースモーゲージの話で、私は2、3年前に恩師に提案したことが一つあります。それは、高齢者が受け取っている年金を何かの形で担保にして、その住んでいる方の家を建て替える道を開く方法がないだろうか、と。
年金を担保にするということは今、許されていません。ただ実際には、みんなだんだん寿命が延びてきて、例えば120歳まで生きてしまった。すると、その方が受け取る生涯年金は結構な額になってくる。それを当てにして、あとは行政が少し補助をすると、その方が住んでいる最後の住宅に立派な投資をして立派な住まいにして、立派なご臨終を迎えていただくことができるかもしれない。
あとの世代が使えるような立派な物件にして、あとは行政が接収して下の世代にうまく回すという道が開いてもいいのではないでしょうか。その代わりそのお年寄りは、自分の残りの人生の年金をある種の担保にして、自分は長いことこういう家に住みたかったんだという家に、人生最後の何年間の間住める。それが個人の趣味のレベルを超えたぐらい質のいいものであれば、亡くなったあと別の世代の方に回しても、その方が喜んで使う。
ただ、これはお年寄りの年金に誰かが手助けしないとできません。それは個人の篤志家なのか、行政なのか、誰かがやってみたら面白いかなと思っています。そうすると空き家も質のいい空き家がボンボン生まれてくる、そういう世界が生まれてくるのではないでしょうか。
【アルマザン】
やはりスモールスケールということが大切だと思います。小さいスケールを生かして、コミュニティという資源、今あるコミュニティという資源、先ほど紙田先生のお話では、コミュニティによって多くの命が救われたということで、コミュニティは非常に大きなレジリエンスの資源であるから、そのためにはスモールスケールを確保して、フェニックスのような建築を作る。それは木造なのかスチールなのか、あるいは60年代のメタボリスト、丹下健三さん、黒川紀章さんのようなコアとカプセルのような、いろいろな発想、建築的なアプローチがありますが、そういう解体できる建築という、すごく貴重なアイデアをいただきました。
そういうことも踏まえて、最終的にはやはり今までのような新自由主義的なアプローチをやめて、もう少し行政や政府などは都市計画に関わったほうがいいのではないでしょうか。全部市場に任せる、あるいは大きな都市計画のいろいろな側面を市場に任せてしまうとなかなかコントロールできないし、うまくいかないということは、もういろいろな国で証明されています。20世紀的な都市計画ではなく、21世紀的な参加型都市計画など、そういう考え方のもとに、もう1回、建築家や都市計画家、行政などはきちんと都市をコントロールして考えて、ゆっくり決めたほうがいいのではないかと思います。そういう時代になったのではないでしょうか。
【紙田】
コミュニティというものが本当にハードだけで全て解決するのなら、たぶん今でもかなりのことが解決していると思います。やはり小檜山先生からもあったように、縦割りの隙間の弱いところに、災害などがやってくる。なので、やはりコミュニティや建物、まち、都市、さらには税制や保険制度など、そういうものを縦割りではなくもう少し有機的につなげて隙間を埋めていく必要があると思います。
例えば高齢者ばかりで、災害時に助け合おうといったってなかなか助け合えないと思いますが、だったら高齢者として何ができるか。去年、田老地区のまちづくりのところで紹介されましたが、「避難しました札」の例で、「自分は無事ですよ」「ここは空き家なのでチェックしなくていいですよ」とか、そういうことが一目瞭然で分かる、それだけでも避難誘導者の助けになります。自分ができることは何だろうということ。共助と言うのか、ハードでできないことの隙間を埋められる、みんなでやれることをやる、そういうことがいいのかなと。
ハード面の話でいうと今、耐震化、不燃化などで行政の補助金などがあるが、そういうものをもう少し拡充してはどうか。もともとの図面がなくても補助金がもらえるとか、ハードルを低くしたり、少しよくなった分だけの補助金をもらえるとか。
あと、建て替えをしてくださいといっても仮住居もなかったりする。これだけ空き地が増えているので、自分は建て替えをしたいけれど、あそこの空き地で建て替えた家を作らせくださいという土地の入れ替えなど、そういうことをもう少し柔軟にやっていければ、皆さんが安全な住宅に住む助けになるのではないでしょうか。
【小檜山】
有機的につながって助け合いをする、そういうコミュニティを目指してまちづくりを行っていくべきだという、大変重要なメッセージだと思います。
ここからは会場の皆さまから質問やご意見をいただきたいと思います。
きょうは会場に大学院の「都市・建築レジリエンス特論」の履修生も多く聴講しているので、ぜひ大学院生の皆さんから、若者の視点でいろいろとご意見をお願いします。
【質問者1】
私は墨田区で設計事務所を経営していて、日ごろ、リフォームや建て替えに携わっています。その中で感じるのが、建築の場合、建物の用途を最初の確認申請を出すときに宣言するというか、決めてしまう、こういった問題は、都市計画のほうの今日話とどう絡むのかなと。
建築の場合は、用途を宣言した途端に、もうその用途でコンクリート(凝固)してしまうようなところがあって、後で少し変えたいということになっても、なかなか変えられない。けれどもフレームやインフラというところでは、鉄骨やコンクリート構造など地盤に近いような強靭なものがあるにもかかわらず、何か法の壁が超えられなくて建物が寿命を迎えてしまうというか、転遷していかないというか、そういった場面によく出会います。
例えば法整備を変えて、100平米で用途変更の場合は今までは届出がいらなかったけれども、それを200平米に変えるとか、そういったことで少し進むのかなと思ったが、基準法には合致していることという前提はあると思います。こうしたことは例えば法整備を変えたり、仕組みを変えるなど、そういう方法はないのでしょうか。
【小檜山】
実務の中で、100平米を200平米に緩和すること以外に、何かネックになっているような規制はありますか?
【質問者1】
最近「民泊」という形態が増えて、政府としてはかなり積極的に受け入れて、民泊新法ができて規制緩和されましたたが、あくまでも住宅という範囲の中で認めています。
だけれども旅館業法で言えば、必ずしも住宅とは基準法上、用途が違っているので、そこは壁がある。本当であれば、ちょっとしたアパートと小さな小規模宿泊施設はビルディングタイプというか建物の形態は、小部屋が連なっているということではかなり似ていると思う。構造的には似ているのだけれども、最初に宣言してしまっている関係で変えられないというか、そういう事例になっているようなところもいくつかありました。
【紙田】
規制緩和という話もありますが、少し堅いことを言うと、もともと専用住宅に住んでいた人は、自分の家の玄関や勝手口はどこにあるかはすぐ分かっているし、階段はどこにあるかも分かっている。もともと分かっているため避難口の表示もしなくていいし、避難経路も短くなくていいということがありますが、例えば特殊建築物や消防法の防火建築物になるような用途に変えたいというときには、使う人は1泊ずつ全然違う人が来るわけで、やはり避難口がどこか分からないといった問題は出てくる。なので、それに合ったような設備を付ける、それに合ったような避難距離を確保するとか、最初に法律を決めた時点では必要だということで、そういう厳しい義務が、特殊建築物や旅館業法の旅館には課されています。用途を変えたいけれども届出をするのが難しい、一級建築士でないとできないなどの、ハードル、中身の緩和は、やはり私もやるべきではないと思っています。それに対する、安く避難用の表示や消防機器を付けるなど、そちらへの補助金であったり、用途転換パッケージのようなことを提供していくとか、そういうことでハードルを低くするということが有効なのではないかと思います。
【小檜山】
規制は規制で、その存在の意義があり、ハードルを下げる方策として、補助金という経済的な手段もあるのではないかと。
【質問者2】
東京都都市づくり公社に務めている者です。先ほど、家の数が世帯数よりも多いのにタワーマンションを規制するという動きがなかなか出てこない、と。今、仕事で北区を回っているのですが、その中で、タワーマンションはあまりないが、分譲住宅を見かける機会が結構多い。権利者の方に移転先の話をしているとよく聞こえてくるのが、分譲住宅は嫌、分譲住宅は量産品みたいで、あまり価値を感じられないという声です。
今は広い庭付きの住宅が、空き家になると、更地にされ、分譲されて、小さめの住宅が2、3軒建つというパターンが多いと思います。結局、住んでいる人やその子どもの世代が建物に対してあまり愛着や価値を感じないせいで、出て行ってしまい、空き家がまた倍、倍にどんどん数が増えていくような悪循環が起こり得るのではないでしょうか。そういう点について、行政や建築の方面から何か意見があれば伺えますか。
【星野】
私のほうから、現状だけお話を。やはり豊島区においても、例えばかつては100平米以上の敷地に大きな庭付きの家があったところに最近、3、4年ぶりぐらいに行ったら、まとまった敷地に、たぶん所有者が亡くなられたのだと思いますが、やはり分譲戸建てみたいなものがたくさん供給されていました。
実際、統計的なデータを見ても、そういったものが散見されます。豊島区のそのような住宅を専門に扱う会議の中では、大学の先生等からも最低敷地面積規制のような、渋谷区などの有名な地域だと何平米よりも小さくしてはいけないという規制があると指摘されています。豊島区においてそういったやり方、はたして広尾とかそういうところと同じようにやるのかどうかは別ですが、そういった規制も一つの有効な手段なのではないでしょうか。今そういった指摘も外部から受けていて、実際にもそういった供給が進んでいます。
【小檜山】
建ててから売る建売住宅というものは、建てるプロセスのチェックをオーナーが行えないということで、欠陥住宅の温床になっているような側面があります。これからは例えば建築条件付き宅地分譲(売建住宅)を原則とするとか、あるいは土地は売るけれども、どのような家を建てるかはその後、設計者とちゃんと協議をしながら建てることでしっかりと愛着をもって住んでもらえるような、そんな仕組みを社会に取り入れていくということも必要なのかもしれません。それがゆくゆくはレジリエンスを高めることにつながってくる可能性があるということかと思います。
皆さん長時間にわたりご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。今回のシンポジウムが、皆さまのお住まいになっている地域の防災に役立つことを祈っております。
(了)